最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)541号 判決 1995年9月19日
大阪市旭区高殿七丁目四番一七号 ワコウハイツ四〇一号
上告人
中田健次
同 中央区南船場一丁目一一番二三号
上告人
株式会社サンライフジャパン
右代表者代表取締役
中田幸吉
右両名訴訟代理人弁護士
村林隆一
松本司
今中利昭
吉村洋
浦田和栄
辻川正人
東風龍明
片桐浩二
久世勝之
岩坪哲
大阪市中央区心斎橋筋一丁目八番三号
被上告人
株式会社そごう
右代表者代表取締役
水島廣雄
同 中央区博労町四丁目四番六号
被上告人
エーワン商事株式会社
右代表者代表取締役
井平悟
右両名訴訟代理人弁護士
山崎行造
伊藤嘉奈子
窪木登志子
松波明博
日野修男
右当事者間の大阪高等裁判所平成四年(ネ)第三五九号商標権侵害行為差止、損害賠償請求事件について、同裁判所が平成四年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
"
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人村林隆一、同松本司、同今中利昭、同吉村洋、同浦田和栄、同辻川正人、同東風龍明、同片桐浩二、同久世勝之、同岩坪哲の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下において、被上告人標章はいずれも本件商標に類似しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
(平成五年(オ)第五四一号 上告人 中田健次 外一名)
上告代理人村林隆一、同松本司、同今中利昭、同吉村洋、同浦田和栄、同辻川正人、同東風龍明、同片桐浩二、同久世勝之、同岩坪哲の上告理由
一、 前提事実
(一) 本件商標権は別紙(一)の通りである。
(二) 右(一)の連合商標(もと)は別紙(二)の通りである。
(三) 差止めを求める標章は別紙(三)の通りである。
(四) 原審の引用した比較商標目録は別紙(四)の通りである。
二、 原判決には判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違反がある-商標法第参拾六条、第参拾七条第壱号(登録商標に類似する商標の解釈の誤りがある)。
(一) 原判決は、第参第弐項において、「右の(1)ないし(10)の各登録商標は、いずれも、その指定商品中に本件商品を包含し、かつ、動物のラクダの図形を商標中に取り入れており、特に(4)、(5)、(7)、(8)、(9)、(10)の各登録商標からは、その構成に照らして、『ラクダ』、又は、『らくだじるし』の称呼及び『動物のラクダ』又は『動物のラクダの印』の観念を生ずることが明らかである。」と認定判断している。
(1) 然しながら、
商標は具体的な商品に使用し、取引者及び消費者が之を見て、その出所を認識し、その品質のよしあしを決定するものである。ところで、本件商標の指定商品は旧第参拾六条に該当するものであるから、之を判断するものは、市井の消費者である。このような消費者は本件商標が本件商品に使用されているその状態において、本件商標の外観、称呼、観念を把握して本件商品を特定化し、その出所を感得するものである。従って、この間にあって、本件商標出願又は登録の後にどのような商標が出願され登録されたかを認識したり、調査したりすることは全くあり得ないことである。
従って、本件商標の称呼、観念を決定するに際し、原判決のような操作をすることは全くあり得ないことであり、取引の実際に反する。
(2) ところで、裁判所の引用する(4)は、「キャラバン」、又は「『馬』状の動物が隊列を為して行進している状態」であって、この標章から「らくだ」又は、「らくだじるし」の称呼又は観念が生じるとは言えない。(5)は、そこに表示された画そのものであって、この画からは決してラクダの称呼、観念は生じない。その動物の顔は「馬又はロバ」の顔であって、決して「らくだ」ではなく、その胴体には特定の容器の中に野菜類即ち、大根等が入れてある画が書かわれている。(7)はキャラバンであり、(8)はピラミットとラクダとヤシの結合であり、(9)はジュンカアデイナアとラクダの結合である。以上何れも結合標章であり、結合標章であるが故に本件商標と類似のものでないとして登録せられたものであって、決して原判決の引用した登録商標は単独に「らくだ」の称呼、観念を生じるものではない。
(二) 次ぎに原判決は第参第弐項(五)前段において、「右(1)ないし(10)の各商標が本件商標の設定登録後に商標登録出願され設定登録されている事実に徴すると、本件商標の指定商品である純綿メリヤス製のシャツ等の取引の実際においては、「らくだ」又は「らくだじるし」の称呼や単なる『動物のラクダ』又は『動物のラクダの印』の観念のみでは、商標の基本的機能である自他商品の識別標識としての機能を果たすことはできず、したがって、取引者及び需要者により、『らくだ』又は『らくだじるし』の称呼や単なる『動物のラクダ』又は『動物のラクダの印』の観念のみによって識別されて取引され、購入されることはないものと認められる。」と認定判断している。
然しながら、
(1) 原判決も認定しているように原判決が引用している標章はすべて本件商標の出願及び設定登録後に出願又は登録せられたものであり、それは、全く上告人らの関知していないものである。このように上告人らの全く関知しない後登録によって、出願商標権の権利の範囲を制限するような解釈は商標制度の基本体制を否認するものである。
(2) 却って、本件登録商標には別紙(二)のような連合商標が登録されていたのであり、右の連合商標の登録の事実は本件商標から『動物のラクダ』の称呼観念を生じる事実を前提としているのである。
(三) 原判決は第参第弐項(五)後段において、「右(1)ないし(10)の各商標のように、その指定商品中に本件商標の指定商品を包含し、かつ動物のラクダの図形を商標中に取り入れ、ないしは『らくだ』又は『らくだじるし』の称呼及び『動物のラクダ』又は『動物のラクダの印』の観念を生ずる商標が約弐拾年の長期にわたって多数設定登録され(・・・)、しかも、既に本件商標との類似(・・・)を理由とする商標登録の無効審判の請求(・・・)がないまま五年の除斥期間(・・・)が経過している事実は、本件商標の指定商品の取引の実際において、『らくだ』又は『らくだじるし』の称呼も単なる『動物のラクダ』又は『動物のラクダの印』の観念のみでは、商標の基本的機能である自他商品の識別標識としてその機能を果たすことができないという取引の実情を示すものということができるのであって、このことは、本件商標権の当初からの効力範囲を明らかにするものである・・・」と認定判断している。
然しながら、
(1) (一)に主張した通り右(1)乃至(10)の標章は決して「らくだ」単独の商標ではなく、結合商標である。
(2) 而も、右は単に登録せられた商標であり、決して使用せられたものではない。然るに、原判決は弐拾年に亘って係る登録商標が存在する事実は取引の実情を示すものであるという飛躍した判断を示している。
然しながら、特許庁において登録されたということは、かかる登録商標が存在するということであって、決してそのことによって取引の実際に変化を及ぼすものではない。その為には之等の(1)乃至(10)の登録商標が現実に使用されていることが必要である。そして、(1)乃至(10)の使用によって、本件商標が具体的に如何に称呼され、観念されるのかという取引の実情を明らかにすべきであって、右のような形式論のみによって、本件商標からは「らくだ」又は「らくだ印」の称呼を生じないということが出来ない(御庁平成参年(オ)第壱八〇五号、同四年九月弐拾弐日判決 特許ニュース 八四九六号)、然るに、原判決は右(1)乃至(10)の商標が現実に使用されていたかどうかについて全く証拠調べをせず、単に無効審判の除斥期間が経過したという形式論によってのみ、それが取引の実情を示すものであるという飛躍した議論を展開しているのみである。
(3) 而も、その結果、それが本件商標権の当初からの効力範囲を明らかにするものであるというのであるが、そうであるなら別紙(二)の連合商標が存在したことがどういうことになるのかが、之又、全く審理判断していないのである。
(四) 原判決は、差止めを求める商標について、取引の実情として侵害すると指摘された商標の著名性等具体的事情も考慮すべきであると認定判断している。
然しながら、
(1) 本件対象商品は、被上告人エーワン商事株式会社で製作し、株式会社そごう(百貨店)において店頭販売せられているものである。そこには市井の消費者が直接当該商品を手に持って、「CAMEL」の文字と動物のラクダの図形と商品を見て、購入するものであり、この間にあって、この商標が訴外レイノルズの商標であると感得することは全くあり得ない。即ち、
(イ) 原判決も認定するように「CAMEL」の語自体は、決して創作したもの(造語)ではないこと、而も、この言葉は、誰でも知っている動物の「ラクダ」「キャメル」の名前を選択して自己の企業の名前にしただけである。
(ロ) その表示方法も決して特徴のあるものではないこと。
(ハ) 而も、原判決が引用する訴外レイノズルの「CAMEL」の商標は「煙草等」の分野において周知であるというだけであって、本件商品の購入者の間にあって、それが、周知であるということは全くあり得ない。蓋し、本件商品を購入するものは婦人又は若者が多く、これらの者が決して煙草愛好者であると限ってないことである。その為には取引の実情を調査すべきであり、原審が勝手に推認すべき事項でもない(前記御庁判決)。
(2) 要するに、原判決は我が国における商標制度が、
<1> 先願主義を採用していること。
<2> 先願主張にはその使用を義務付けられていないこと。
<3> 権利者は指定商品を指定して、その商品について商標権を取得するものであること。
<4> 商標が類似するかどうかは具体的な取引の実情に基づいて決定すべきものであること。
<5> 不正競争防止法においても、登録せられた商標権は尊重せられているものであること(第六条)。
という商標の制度の根底を覆すものてあり、到底承服することが出来ない。
三、 依って、原判決は破棄せられるべきである。
以上
(添付図面―第一審判決添付と同一―省略)